ななみとこのみのおしえてA・B・C SS 「いつも笑っていて」 よく晴れた夏の日。 いつものように、雅尚は西村姉妹の部屋のドアをノックする。 コンコン ガチャ 雅尚「ななみちゃん、そろそろ時間…わっ、ど、どうしたの!?」 部屋に入った雅尚の目に飛び込んできたのは 大粒の涙をぽろぽろとこぼす ななみの姿だった。 ななみ「あ…おにいちゃん…」 雅尚「どっどうしたのななみちゃん!?お腹でも痛い!?」 ななみ「あっ ううん違うの。     これ読んでたら 感動して泣いちゃって…」 ななみが見せたのは、一冊の少女漫画。 雅尚「あっそれ、もしかして前に教えてくれた    お父さんを亡くした女の子の話?」 ななみ「うん。最終回がね、すごくいいお話だったの」 雅尚「あ、完結したんだね」 ななみ「うん。最後のね、     女の子が新しいパパにぎゅってされながら     『ずっとずっと一緒だよ』って言ってもらうシーンで     すごく感動しちゃって…     ごめんね、心配させちゃって」 雅尚「ううん、それならいいんだ。    でもななみちゃんが前言ってた通り、面白そうな漫画だね」 ななみ「うん、とっても面白かったよ。     そうだ、おにいちゃんも今度読んでみる?」 雅尚「そうだね。少女漫画ってあんまり読んだことないけど    ななみちゃんのオススメなら 読んでみたいな」 ななみ「ほんとっ?じゃあ今度貸すから     読んだら感想聞かせてね」 雅尚「オッケー、まかしといて。    あ、そうだななみちゃん。そろそろお祭り始まるから呼びに来たんだ」 2人は今日、一緒に夏祭りに行く約束をしていた。 ななみ「あっごめんなさい おにいちゃん!     つい漫画に夢中になっちゃってて…     すぐ浴衣に着替えるね」 雅尚「良かったらまた手伝おうか?」 ななみ「え、いいの?」 雅尚「実はあれから ネットでも浴衣の着付けを勉強したんだよね。    だから前より 上手く手伝えると思うよ」 ななみ「うん…じゃあえっと ちょっぴり恥ずかしいけど…     お願い、おにいちゃん…///」 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 祭りで賑わう境内を、2人は仲良く手を繋いで歩いていた。 ななみ「わぁ、すごい人…」 雅尚「そうだねー、はぐれないように    しっかり手を握っててね。ななみちゃん」 ななみ「うん……❤」 雅尚「でも今日は このみちゃん残念だったね」 ななみ「うん、体操クラブの合宿とかぶっちゃって     すごく残念そうにしてたよ」 雅尚「来年はみんなで来たいね」 ななみ「うん、3人で一緒に…あっ…」 ななみは 射的の屋台に並んだ景品に目を奪われ、 思わず足を止めていた。 雅尚「…ななみちゃん、あのぬいぐるみ気に入った?」 ななみ「あ…うん…❤」 雅尚「ななみちゃん クマさん好きだもんね。やってみたい?」 ななみ「でも ななみに取れるかなあ…」 雅尚「きっと出来るよ。僕も応援してるから」 ななみ「うん。じゃあ…ななみ やってみる!」 雅尚「その意気その意気。    おじさーん、1回お願いします」 屋台の主人から 生まれて初めての鉄砲を手渡されたななみは おっかなびっくり構えを取る。 ななみ「んしょ…えと おにいちゃん、     こんな感じかな…?」 雅尚「おっ なかなかサマになってるよ ななみちゃん。カッコいいよ」 ななみ「えへ、そうかな…?     じゃあ見ててね、おにいちゃん」 雅尚「うん、頑張れ!」 ポンッ! ななみ「きゃっ!?」 ドスン 発砲音と銃の反動に驚いたななみは、 思わずその場で尻もちをついていた。 雅尚「な、ななみちゃん!?」 店主「お、お嬢ちゃん大丈夫かい?」 ななみ「ごめんなさい…ななみビックリしちゃって」 浴衣についた砂を払いながら 照れ臭そうにななみは立ち上がる。 ななみ「えへへ、失敗しちゃった」 雅尚「最初は誰でもそんなもんだよ。次はきっと上手くいくよ」 ななみ「ありがとう、おにいちゃん」 気を取り直して、ななみはもう一度構える。 ポンッ!ポンッ! 店主「ありゃー、惜しいねえ」 店主のお世辞とは裏腹に、 ななみの撃った弾は 全て見当違いの方向へ飛んでいた。 ななみ「難しいね…」 雅尚「まだ2発あるよ ななみちゃん。    落ち着いてよく狙えば大丈夫!集中して」 ななみ「うん…!しゅうちゅう、しゅうちゅう…」 呪文のように唱えながら、ななみは4発目を放つ。 ポンッ!カツンッ! ななみの弾は、初めてお菓子の箱に命中する。 …が、勢いよく跳ね返ってきた弾が ななみの額を直撃した。 ななみ「きゃあっ!?」 ドスン 再び尻もちをつくななみ。 雅尚「な、ななみちゃん…!」 ななみ「いたたた…」 店主「あっはっは!景品を撃つつもりが、    自分を撃っちゃったお客さんは初めてだ!!    でもおめでとうお嬢ちゃん 賞品ゲットだよ」 立ち上がりながら ななみはお菓子の箱を受け取る。 ななみ「あ ありがとうございます…!」 雅尚「ななみちゃん大丈夫?ケガとかしてない?」 ななみ「うん、平気だよおにいちゃん。     それに見て!ななみが初めて取った景品だよ♪」 雅尚「うん、凄いねななみちゃん。    初めてだったのに 射的の才能あるんじゃない?」 ななみ「えへへ、そうなのかな」 雅尚「それにそのお菓子 クマさんの隣にあったやつだからね。    最後の一発で クマさん取れるかもよ」 ななみ「うん、ななみ がんばるよ!」 すっかり気を良くしたななみは 大きく深呼吸をして 5発目を構える。 ポンッ!ビシッ! ななみ「わぁ 当たった…!」 弾は見事にぬいぐるみの足に命中したが わずかに動いただけで、台から落下させることは出来なかった。 ななみ「あ…」 店主「残念!惜しかったねえ~」 雅尚「ナイスファイトだよ、ななみちゃん!    次は僕がやってみていいかな?」 ななみ「え?でも おにいちゃん…」 雅尚「あ、おじさん もっかいお願いします」 言うが早いか 雅尚は手渡された銃を構えていた。 ななみ「おにいちゃん…いいの?」 雅尚「ななみちゃんに カッコいいとこ見せたいからね。    そう言って取れなかったら 滅茶苦茶カッコ悪いけどw」 ななみ「ううん。おにいちゃんなら 絶対取れるよ!」 雅尚「ご期待に添えるよう頑張りますよ、お姫様」 ポンッ ビシッ!ポンッ ビシッ! ななみ「すごいおにいちゃん…!全部あたってるよ!?」 雅尚の弾は 全てぬいぐるみに命中しているものの 見た目より重量のある景品らしく、落下には至らない。 しかし着実に ぬいぐるみはバランスを崩しつつあった。 雅尚「ラスト一発か…これで決めないとね」 暑さのせいか緊張のせいか、雅尚の額には汗がにじんでいる。 期待と信頼が込められた ななみの視線を背に受け、 運命の一発を放つ。 ポンッ ビシッ!クルン… ななみ「わあっ…!!」 トサッ ななみ「すごい…すごいよ おにいちゃん!!」 雅尚「ふぅ…ギリギリ、かな」 店主「おめでとーう!これも愛のチカラ、ってヤツかな?w」 ななみ「……!?え、えっ!?」 雅尚「あはは、そうかもしれませんね」 ななみ「おおおにいちゃん!?」 顔を真っ赤にするななみに、 雅尚は淡いピンク色をした クマのぬいぐるみを手渡す。 雅尚「はいお姫様、プレゼント」 ななみ「おにいちゃん ありがとう…!!     ななみ、ずっと大事にするね!!」 雅尚「どういたしまして。ななみちゃんが喜んでくれると    頑張った甲斐があるね」 ななみ「うん!わ、おにいちゃん凄い汗…!」 雅尚「あはは、集中してたからかな?    何か飲もうか。ななみちゃん ラムネでもどう? ななみ「あ、ななみ飲んだことないから 飲んでみたい」 雅尚「ホント?じゃあ買ってくるから ここで待ってて」 走り去る雅尚を見ながら、 ななみは愛おしそうに ぬいぐるみを抱きしめる。 と、彼女の側を まだほんの小さな女の子が通り過ぎた。 少女「ぱぱー、つかれちゃったー。    おんぶ、おんぶー!」 父親「ははは、またかい?甘えんぼうだなあ。    しょうがないなあ…よいしょっと」 少女「えへへ…ぱぱ、だいすきー」 ななみ「………!」 何気ない会話をする父娘を 思わず目で追っていたななみの胸に 何とも言えない感情が湧き上がってくる。 雅尚「ななみちゃん、お待た…    わっ!?どどどうしたの!?」 戻ってきた雅尚の目に映ったのは、その日2度目の そして先刻より一層大粒の涙を流す ななみの姿だった。 ななみ「ご…ごめんなさい おにいちゃん…!     な、なんでも…なんでもないの…!!」 雅尚「何でもなくないでしょ…    ほら、とにかくこっちおいで」 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 雅尚に手を引かれ、人気の少ない公園に来たななみは ベンチに座ってラムネに口をつけていた。 雅尚「ななみちゃん、落ち着いた?」 ななみ「うん…ごめんなさい おにいちゃん。     せっかくの楽しい日なのに 台無しにしちゃって…」 雅尚「全然そんなこと思ってないよ。    それより 何かあった?」 ななみ「ほんとに何でもないの。ただね…     パパと一緒に歩いてる女の子がいて     その子見てたら さっきの漫画のこととか、     あとななみの…パパのこととか…思い出しちゃって…」 うつむきながら 最後は消え入りそうな声で話すななみ。 雅尚「…そっか」 ななみ「ごめんなさい。     さっきあんな漫画読んでた ななみが悪いの…」 雅尚「ななみちゃんは悪くないよ。誰も悪くないよ。    泣きたい時は 泣いてもいいんだよ」 ななみ「……おにいちゃん……」 ドーン ドーン ななみ「あ…」 雅尚「そっか。今日花火もやるって言ってたよね」 雅尚は立ち上がったかと思うと、ななみの前に背を向けてしゃがむ。 ななみ「…??お、おにいちゃん?」 雅尚「ななみちゃん、肩車しよっか。    きっと花火が もっと近くで見られるよ」 ななみ「えっ えっ!?で、でも…」 雅尚「子どもっぽくて 恥ずかしい?」 ななみ「ううん そうじゃないけど…     あの ななみ…お、重いよ…?」 雅尚「あはは 全然重くなんかないよ。ななみちゃん小食なんだから」 ななみ「でも…いいの?」 雅尚「うん。遠慮しないで、ほら」 ななみ「う、うん…」 おずおずと肩に乗ってきたななみを 怖がらせないように 雅尚はゆっくりと立ち上がる。 ななみ「わあっ…ほんとによく見えるね…」 次々と打ち上げられる 色とりどりの閃光と 浴衣越しの脚に伝わってくる温もりに、ななみは目を細める。 ななみ「おにいちゃん…このみちゃんから聞いたの?     ななみが パパに肩車してもらうの好きだったの…」 雅尚「あ、そうだったの?いや全然知らないよ。    ただこうしたら ななみちゃん笑顔になってくれるかなって思って」 ななみ「笑顔…?」 雅尚「うん。ななみちゃん、さっきすごく辛そうな顔してたから」 ななみ「あ…」 雅尚「気付いてないかもしれないけど…    ななみちゃんの笑顔は いつも僕に元気をくれるんだよ。    ななみちゃんは 僕にとっての太陽なんだ」 ななみ「ななみが…太陽…」 ななみは恥ずかしそうにしながらも 心の中にあった何かが 溶けていくのを感じていた。 雅尚「僕はななみちゃんのお父さんの代わりにはなれないけど、    お父さんと同じくらい ななみちゃんのこと大好きだし、    ななみちゃんの為なら、どんな事でもするよ。    だから……いつも笑っててくれると 嬉しいな」 ななみ「……うん。     おにいちゃんが こんな風に側にいてくれたら     ななみはいつも笑顔でいられるよ…❤」 雅尚「いつでも側にいるよ、ななみちゃん」 ななみ「うん…ずっと一緒にいてね おにいちゃん…❤❤」 ~Fin~