Ricotte 〜アルペンブルの歌姫〜 後日談SS 「白い猫と黒い猫」 久しぶりにクワルクに帰ってきて5日目。 今日はフェタの自宅に遊びに来ていた。 リコッテ「きゃっ!やだもう、くすぐった〜い!」 フェタ「こらっ、マール!大人しくしてろっての!」 バノン「あはは、リコッテも猫みたいな所あるし     そうしてると猫が2匹いるみたいだねw」 リコッテ「バノ〜ン?それどういう意味…      きゃあっ!?へ、変なとこ触らないで〜!」 シャウルス「やれやれ、猫は飼い主に似ると言うからね…」 フェタ「あん!?何か言った!?」 小さな白い猫にじゃれつかれたリコッテは、 心底楽しそうに笑っていた。 リコッテ「でもビックリ!フェタがペット飼い始めてたなんて」 バノン「俺も。フェタってこういうの     面倒臭がるタイプだと思ってた」 フェタ「まー別れた彼氏がペット嫌いってだけだったから。     フィオーレと違って もともと動物は好きよ、アタシ」 リコッテ「うんうん、わかる!毛並みとかすごい綺麗だし      すっごく可愛がってあげてるのわかるよ〜!」 フェタ「へへっ、でしょ〜?     アタシってこういう所は意外とマメなのよね〜」 シャウルス「マールに対する優しさを、       少しは人間にも向けてくれれば文句ないのだけどね」 ビシッ! フェタの無言のデコピンが、一言多いシャウルスに炸裂する。 シャウルス「いたっ!何をする!ボクのこの端正な顔立ちに       傷でもついたら どうしてくれるんだ!」 フェタ「ま、バカはほっといて。あんた達さ、良かったら     マール連れてちょっと散歩でもしてきてくんない?     その間にアタシは洗い物済ませとくから」 リコッテ「え!?そ、そんなの悪いよ!?      お昼までご馳走になっちゃったのに…」 バノン「洗い物くらい手伝うよ」 フェタ「いいって!その子、最近運動不足だからさ。     むしろ連れ出してくれると助かるのよね〜     手伝いならこいつもいるしさ」 バノン「え…?シャウルスが…?」 俺の表情で何かを察したシャウルスは、ちょっとむっとする。 シャウルス「バノン…今『お坊っちゃまに出来るわけがない』       とか思っただろう!?失敬な!!       見ていたまえ、君達が戻ってきたら       ピカピカに磨かれた食器を見せて驚かせてあげるさ」 フェタ「最近ちょいちょいやらせてるから大丈夫だって!     ほら、わかったらとっとと行った行った!」 バタン 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 バノン「はは、何か半分追い出されちゃったねw」 リコッテ「ねえ、フェタって…      あんなにシャウルスと仲良かった?」 バノン「あー…何かフィオーレ達に聞いたんだけど     最近ほとんど一緒にいるみたい」 リコッテ「えっ!?そそそそれってもしかして…!!」 驚きと関心、動揺と期待感が入り交じった表情で 目を輝かせるリコッテ。 バノン「リコッテ、食い付き過ぎw     まあ、まだちゃんと付き合ってるとかじゃないみたいだし     2人にその自覚があるのかも わかんないけど。     フィオーレが言うには 時間の問題じゃないかって」 リコッテ「うわぁ…そーなんだぁ…!!      何かうれしーなぁ…自分のことみたい!」 バノン「うん、俺も。2人には凄く世話になったしね」 リコッテ「うん…それにシャウルスには      迷惑もかけちゃったしね」 2人で初めてステージに立った、 パーティの夜のことを思い出したのか、 少し苦笑いしてうつむくリコッテ。 バノン「でもあの時とはもう違うよ…でしょ?」 リコッテ「うん!今はいつでも バノンと一緒だもんね!」 猫を抱いていた片手を離し、 俺の手を取ってきたリコッテの小さな手を ぎゅっと握り返す。 と、少し自由になった猫は 小さく鳴きながら伸びをする。 リコッテ「でもこの子ほんと可愛いよね〜!」 バノン「うん。人懐っこいし、     フェタが溺愛するのもわかる気がする」 リコッテ「ねえバノン。このマールって子…      誰かに似てると思わない?」 バノン「あ…ロールのこと 思い出しちゃった?」 リコッテ「うん…色は白と黒で反対だけど      まん丸で緑色の目がそっくりなの」 バノン「名前も似てるしね。ロールとマール」 リコッテ「うん…      元気にしてるかな、ロール…」 少し寂しそうに遠くを見るリコッテの横顔は、 ステージで見せる表情とも 俺と2人の時に見せてくれる表情とも違っていた。 大人の女性の表情… ともすれば母親の表情にさえ見えて ちょっとドキッとしてしまった。 バノン「幸せに暮らしてるよ。きっと」 リコッテ「うん…きっとそうだよね」 バノン「ロールの飼い主、優しそうな人だったしさ」 リコッテ「…あ、バノン?      『あの飼い主の女の子、可愛かったな〜』      とか、今思ったでしょ!?」 バノン「お、思ってないって!」 と、突然。 マールがピンと耳を立てたかと思うと、 リコッテの胸元から飛び降りた。 リコッテ「わっ!?ど、どうしたのマール!?」 そのままマールは一直線に、ある方向に走っていく。 バノン「何か見つけたのかな…?」 リコッテ「ちょちょっとマール!置いてかないでよ〜!」 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 リコッテ「はあ、はあっ…マール、足はや〜い…」 バノン「そりゃまあ、猫だからね…」 見失わないように必死に追いかけて、 ようやくマールが立ち止まった場所は 人気のない公園だった。 リコッテ「!?あ、あれって…!?」 公園の中心にある小さな砂場。 そこには、リコッテと同じくらいの年格好の少年が2人。 そして… リコッテ「ロール!?」 見間違えるわけがなかった。 もう1年近く前とはいえ、 毎日側で見ていた、あのつぶらな緑の瞳を。 しかしロールの身体は首まで砂に埋められ、 少年達に棒で小突かれていた。 助けなきゃ…!そう思った矢先、 バノン「!?は、はやっ…」 既にリコッテは、ロールと悪ガキ2人組の間に割り込んでいた。 少年A「?なんだこいつ」 リコッテ「あんた、あんた達…何やってんのっ!!?」 少年B「なんだお前、邪魔すんなよなー」 リコッテ「この子は、ロールは…      私達の大事な家族なんだからっ!!」 少年B「猫が家族だってw バッカじゃねーのw」 リコッテ「何がおかしいの?      ロールに何かあったら…      ただじゃおかないんだからっっ!!!」 空気が震える程の叫び声。 今にも噛みつきそうなリコッテのあまりの剣幕に 悪ガキ達は思わずひるみ、後ずさる。 俺はその隙にロールを 砂の中から助け出す。 少年A「あっ!お前、勝手に…」 バノン「うちの猫なのは本当だよ。それにこの子、     こう見えて血統書つきの いいとこの猫なんだよね」 少年B「うっ!?」 バノン「この子がもし怪我でもしたら     君ら弁償とか出来るのかな」 にこやかに、冷静にそう告げる。 少年B「お、覚えてろよ!」 捨て台詞を吐き、一目散に逃げていく悪ガキコンビを リコッテはものすごい形相でにらみつけていた。 感情が昂り過ぎて涙目にまでなって ふーっ、ふーっ…って、まだ肩で息をしている。 あそこまで怒ってるリコッテ、初めて見たかも… ぽん、とリコッテの頭に手を乗せると、ようやく我に帰る。 リコッテ「バノン…ありがと…」 何も言わず、ロールをリコッテの胸に抱かせてあげる。 リコッテ「ロール…!!!」 めいいっぱいロールを抱きしめるリコッテの瞳から 大粒の涙がこぼれ落ちる。 リコッテ「ロール、痛かったよね、怖かったよね…!      でも私…!またロールに会えて嬉しい!!      こうやって抱っこできて嬉しい!!!」 ロール「にゃーん♪」 ロールもリコッテとの再会を喜んでいるのか、 砂まみれの身体をリコッテにこすりつける。 俺は片手でそんなロールの頭を、 もう片方の手でリコッテの頭を撫でる。 バノン「どこも怪我とかはしてないみたいだね。     良かったね、リコッテ」 リコッテ「うん、うんっ…!!      マールもありがと、      ロールの居場所教えてくれ…あ…」 ちょこんと座ったマールの視線を追うと 駆けてくる一人の女性が目に入った。見覚えのある人だ。 トゥーシー「ラミちゃん…!」 ロール「にゃー!にゃー!」 あの時ロールを抱いていた、本当の飼い主の女性… だけど、少し動きがおかしいように見える。 ロールの方を真っ直ぐ見るわけではなく、 ロールの声を頼りにこちらへ向かってくる。 この人、もしかして目が…? トゥーシー「ラミちゃん、そこにいるんですね!?       もう、ちょっと目を離すと       すぐどこかへ行っちゃうんですから」 リコッテ「ロール、ほら…お迎えだよ…」 リコッテは身を切られるような表情で、 ロールを女性に返す。リコッテ… トゥーシー「あなたが見つけてくださったんですね!       ありがとうございま…まあ、こんな砂だらけに…」 バノン「あ…それには訳が…」 俺は今ここであった出来事を かいつまんで説明する。 トゥーシー「まあ…それであなた方が       助けてくださったんですか!?       本当に、何とお礼を申し上げていいのか…       あっ、ラミちゃん!?」 ピョン、と女性の腕から抜け出したロールは リコッテの下へ帰ってくる。 ロール「にゃあ♪」 リコッテ「あっこら、ロールだめ!      ちゃんとお家に帰りなさい!」 トゥーシー「何だかすごく懐いちゃってますね…       あの、本当にラミちゃんと       今初めて会ったんですか…?」 リコッテ「……」 ばつが悪そうな表情のリコッテを見ていられなくなり、 つい打ち明けてしまう。 バノン「あの、実は…1年くらい前に     この子と暮らしてたことがあるんです」 リコッテ「ほ、本当にごめんなさい!!      ちゃんと飼い主さんがいるって知らなくって      それにすごく可愛かったから、つい…」 トゥーシー「まあ…あの時確かに不思議だったんです。       何週間も寒空の下にいたにしては       すごく元気そうだし、       毎日お風呂に入ってたみたいに綺麗になってて…」 リコッテ「え…」 トゥーシー「あなた方の…おかげだったんですね」 女性はにっこりと 満面の笑みを見せてくれた。 トゥーシー「謝ることなんて無いですよ?       ラミちゃんを大切にしてくださって       むしろありがとうございます」 リコッテ「そ、そんな…お礼言われるようなことなんて…」 トゥーシー「ラミちゃん、あなたのこと       凄く気に入っているみたいですし…       もし良かったら これからも時々       会いに来てあげてくれませんか?」 リコッテ「え、ええええっ!?いいいいいんですか!?」 リコッテはロールを抱いたまま、 信じられないといった表情で女性を見る。 トゥーシー「ええ♪ラミちゃんも ずっとあなたに会えないのは       きっと寂しいと思いますし」 リコッテ「で、でもでも…いいのかな…」 トゥーシー「遠慮なんてしないでください。       ラミちゃんがこんなに好きになる人達と、       私もお話してみたいですし」 リコッテ「で…でもっ!      私達、いつもはアルペンブルで仕事してて      あまりこっちには帰ってこれないから…」 トゥーシー「まあ、奇遇ですね!       私も普段はアルペンブルにいるんです」 リコッテ「!?えええええっ!?ほ、ほんとですか!?」 それでもまだ迷っているリコッテの肩に、そっと手を置く。 バノン「お言葉に甘えさせてもらおうよ、リコッテ。     ロールもリコッテにまた会えて嬉しそうだよ」 リコッテ「バ、バノン…      じゃ、じゃあじゃあ、時々…      ほんっっっっとに時々でいいので、      ロール…じゃなかった、ラミちゃんに      会わせて頂けますか…!?」 トゥーシー「無理に呼び方を変えなくてもいいですよ?       あなたがつけてくれた名前で 呼んであげてください」 バノン「あはは、名前が2つあるなんて     リコッテとお揃いだねw」 リコッテ「バノンったら!      あ、あのっ、もしご迷惑じゃなかったら…      遊びに行きたいです!!」 トゥーシー「うふふ、楽しみにしてます♪       ラミちゃんも、私も」 ロール「にゃあん♪♪」 より一層じゃれついてくるロールを 思いっきり抱き返すリコッテ。 リコッテ「嬉しい、もう夢みたい…!!      ロール、ロール…!!      これからもよろしくね…!!!」 さっきよりも一層大粒の涙を流して泣きじゃくるリコッテを 優しく見つめる飼い主の女性。 この人には視力はなくても、 リコッテの表情が見えてるのかもしれない… 〜Fin〜