フラワーナイトガール ネリネSS「カナヅチ人魚姫」 スプリングガーデン… 世界を襲う「害虫」と 人々を護る「花騎士(フラワーナイト)」が日夜戦い続ける、 過酷ながらも美しい世界。 今日も害虫を倒す為、 訓練に励む1人の花騎士がいた。 ネリネ「…ぷはぁっ!!     うええ、いっぱいお水飲んじゃったよお…」 透き通るような水色の髪の花騎士、ネリネ。 彼女が訓練場のプールに入り始めて、1時間が経とうとしていた。 ネリネ「はあ…何で私ってこうなんだろ…」 落ち込むネリネに、物陰からひょっこり現れた 小動物のような雰囲気の花騎士が近づいてくる。 ビオラ「ふにー?ネリネちゃん、何してるですか?」 ネリネ「?!ビビビオラちゃん?!いつからいたの?!」 ビオラ「水泳の練習ですか?」 ネリネ「お、お願い!このこと誰にも言わないで!」 ビオラ「?どうしてですか?     練習はとってもいいことですよ、にこー♪」 ネリネ「だ、だって…私が泳げないって     団長さん以外に知られたら恥ずかしいし…」 ビオラ「ふにー、結構みんな知ってますよ?」 ネリネ「え、え?!そそそそうなの?!!」 ビオラ「でも 気にしなくていいと思いますよ?     ネリネちゃんは 他にすごい所いっぱいあります!     スミレおねえちゃんもこの前     『ネリネちゃんの氷の魔法にはいつも助けられてる』     って言ってました!」 雪のように白いネリネの頬が、ぱっと赤くなる。 ネリネ「え…そ、そうなんだ…/// うーん、でも…」 ビオラ「でも?」 ネリネ「やっぱり泳げるようになりたいんだ…     いつかロータスレイクで任務があったら     水の中で戦うこともあるかもしれないし、     もっと強くなって 世界から悪いことなくしたいし…」 ビオラ「ネリネちゃん…」 ネリネ「それにそれに     もっともっと団長さんの役に立ちたいし…!」 小さな体からあふれ出した言葉と、彼女の瞳には 揺るぎない決意が込められていた。 ビオラ「ネリネちゃん!わかりました、わたしも協力します!」 ネリネ「え?きょ、協力って…」 ビオラ「スミレおねえちゃんと団長さんに教えてもらったから     わたしちょっとは泳げるんです。     だから今度は、     わたしがネリネちゃんに 泳ぐの教えてあげます!」 ネリネ「そ、そうなの?!団長さんに?」 ビオラ「団長さん、教えるのとーってもじょうずなんですよ?     そうだ!ネリネちゃんも、     今度団長さんに お願いしてみたらどうですか?」 ネリネ「だだだ団長さんに?!わ、私はいいよ!」 ビオラ「ふにー?どうしてですか?」 ネリネ「だ、だってぇ…」 ネリネ(水着姿で、団長さんと2人っきりなんて…!!) ネリネ「び、ビオラちゃんっ!!     とにかく私に泳ぎ教えて!!」 ビオラ「わっかりましたー!まかせてください!」 ―――1時間後 ネリネ「…けほけほっ!!うう、足つっちゃった…」 ビオラ「ネリネちゃん、体にとっても力が入っちゃってますよ?     もっとリラックス、リラックスです!」 ネリネ「む、難しいよお…     水の中にいると、つい体がきゅううってなっちゃって…」 ビオラ「あとバタ足はとってもじょうずですけど     おててまでバタバタしなくていいんですよ?」 ネリネ「あ、あれは…///     お水に顔つけると焦っちゃって、     ついバタバタバタ〜!ってなっちゃうの…」 ビオラ「ふにー、でもちょっとずつじょうずになってる気がします」 ネリネ「ほ、ほんと?…よぉし、もうひと頑張り!」 ―――さらに1時間後 ネリネ「…ぷはっ!!はあ、はあっ…」 ビオラ「ネリネちゃん、今日はこのくらいにしましょう?     あんまり頑張りすぎると疲れちゃいます」 ネリネ「そ、そだね…     ゴメンねビオラちゃん、     こんなに付き合わせちゃって…」 ビオラ「にこー♪全然気にしないでいいですよ?     あそうだ!     気分転換にちょっとおさんぽでも行きませんか?     昨日の雨がウソみたいに、今日はとってもいいお天気です!」 ネリネ(ビオラちゃん…私を元気づけようとしてくれてるんだ…) ネリネ「う、うん、ありがと!待っててね、すぐ着替えてくる!」 ―――30分後 お気に入りの青い服に着替え、 ビオラと並んで、心地よい日差しの中を歩くネリネは どこか浮かない表情だった。 ビオラ(ふにー…ネリネちゃん、元気ないです…) ビオラ「ネ、ネリネちゃん!     お日さまがとっても気持ちいいですね、にこー♪」 ネリネ「あ、うん…そだね…」 ビオラ「そうだ、この前コデマリちゃんから教えてもらった、     すっごく美味しいケーキ屋さんが 近くにあるんですよ!     一緒に行きませんか?」 ネリネ「う、うん…     でもゴメン、今あんまりお腹すいてない…」 ビオラ「……あ、そういえばこの前、     ヘリオちゃんがコーラときゅうりを…」 ネリネ「……あれっ?!待ってビオラちゃん、何か聞こえる!」 ビオラ「え?」 突然駆け出したネリネがたどり着いた先は、増水した川。 そこでは溺れかけた幼い少女が、必死に助けを求めていた。 女の子「た…たすけてっ…」 ネリネ「た、大変っ…!!」 ビオラ「昨日の大雨で、流れがすっごく速くなっちゃってます…!」 先程までどこか暗かったネリネの表情が 一瞬にして真剣な「花騎士」の顔に変わる。 女の子「だ…だれかぁっ…!」 ネリネ「待ってて、今助けます!!」 ビオラ「?!ネリネちゃん?!」 ビオラが気付いたその時にはもう、ネリネは川に飛び込んでいた。 流れに身を任せ、少女の下にたどり着いたネリネは 小さな体で少女をしっかりと抱きかかえる。 ネリネ「げ、げほっ…ら、らいじょうぶらからね!     しっかりぷかまって、私が今…うぷぷぷっ!!」 ビオラ「ね、ネリネちゃん!」 慌てて辺りを見回したビオラの視線が、 たくましく育った1本の大木をとらえた。 ビオラ「そうだ、あれ…!」 ビオラは玩具のような可愛らしいハンマーを取り出すと 素早く一振りした。 ビオラ「皆さん、お願いします!」 ポン! ポポポポポポン!! ふにーふにーふにーふにー 突如、ミニチュアサイズの小さなビオラが十数人現れる。 その内1人が大木に捕まると その足に、次々と別のビオラがしがみつく。 瞬く間にロープのように長く繋がった小さなビオラ達は 大木からネリネに向かって 体を伸ばした。 ビオラ「ネリネちゃん!これに捕まってくださいー!」 ネリネ「ぶはっ…う、うんっ!!」 ネリネはビオラロープをつたって 少女とともに、何とか岸にあがることに成功する。 ネリネ「うええっ、げほげほっ!!はっ、はあっ、はあ…」 ビオラ「ネリネちゃん…大丈夫ですか?」 ネリネ「う、うん…     ビオラちゃんがすぐ助けてくれたからだよ、     ホントありがとう…     ねえ、あなたは大丈夫?」 助けられた少女は、罪悪感を感じているのか ネリネを心配そうに見つめていた。 女の子「うん…ごめんなさい、川辺であそんでたら     すべって落ちちゃったの…」 ネリネ「そうだったんだ…でも無事でホント良かった…!」 ビオラ「もう川の近くで遊んじゃダメですよ?にこー♪」 幸い怪我などはしていないようで 少女は思ったよりも元気そうだった。 女の子「うんっ!     カッコいいおねえちゃん、ハンマーのおねえちゃん!     たすけてくれてありがとう!」 ネリネ「え?!か、カッコ…?!」 女の子「ばいばーい!!」 手を振りながら走り去る少女を ネリネは、ぽかーんと見送っていた。 ビオラ「えへへ、お顔まっかですよ?カッコいいネリネちゃん♪」 ネリネ「もうっ、ななななに言ってるの!!     だって私、また溺れちゃって     全然あの子のこと 助けられてなかったのに…」 ビオラ「ネリネちゃん、ちょっと泳げてましたよ?」 ネリネ「えっ」 また落ち込みかけていたネリネは、 ビックリしてビオラに向き直る。 ビオラ「はい♪チビオラにつかまる時、少しですけどちゃんと!     練習の成果、出てるみたいです!」 ネリネ「そ、そうなんだ…     えへ 私だってやれば出来るんだね!」 ビオラ「それに、こんな流れの川に飛び込んじゃう勇気もすごいです!     わたしにはぜったい無理です」 ネリネ「うん…」 少し間をおくと、ネリネは優しい表情で川を見つめながら ゆっくりと言葉を紡いだ。 ネリネ「もしもね、あの子がこのまま溺れちゃって     この先経験するはずだったステキな出来事も     ステキな恋も、全部なくなっちゃったとしたら…     そんな悪いこと 絶対止めなきゃって思って。     そしたら、勝手に体が動いてたの」 ビオラ「にこー、ネリネちゃんらしいですー♪」 ネリネ「えへへ、でもビオラちゃんには迷惑かけちゃったね」 ビオラ「そんなことないですよ!     あ、あれ団長さんじゃないですか?」 ネリネ「え?!う、ウソ?!」 ビオラの言葉に、大慌てで振り返るネリネ。 遠くに見える小さな人影は いつも彼女の心を落ち着かせ、 同時に高鳴らせてくれるものと 確かに同一だった。 ビオラ「ちょうどよかったです!     今日のネリネちゃんのこと、     団長さんに教えてあげましょー♪」 ネリネ「い、いいよいいよビオラちゃん!!     こんな格好見せたら、団長さんに心配かけちゃう…」 ネリネ(それに今、ちょっと服透けちゃってるかも…///) ビオラ「でも団長さん、きっとすっごく誉めてくれますよ?     お仕事の後みたいに、いっぱい頭なでなでしてくれます!」 ネリネ「う… そ、そうかもだけど…」 ビオラ「ネリネちゃんがどんなにカッコ良かったか、     私がぜーんぶ 団長さんに教えちゃいます!     おーーい!だーんちょーさーーーん!!」 ネリネ「ままま待ってビオラちゃん!     恥ずかしいからやっぱりやめて〜〜〜!!!」 花騎士… 人々の笑顔を護るために戦い続ける、美しき乙女達。 これはその物語である。 〜fin〜