デスノート×仮面ライダーウィザード コラボSS  〜かけがえない記憶〜 「はい、どうぞ」 「ありがと、おねーちゃん!  この風船、さっきもらったばっかだったんだ」 「ふふ、そうなんだ…今度はしっかり持ってなきゃダメよ」 「うん、そーする!ホントありがとー、じゃあね!」 「うん、バイバイ」 ふふっ、小さい子って可愛いなあ… 私にも、あんな無邪気な頃があったのかな。 私には二度と、あんな笑顔はできそうにない。 あなたが隣にいてくれたら、いくらでも笑えるのに… 私の服がいつも黒なのは、元々好きな色なのもあるけれど。 あなたがいなくなったあの日以来、 他の色を着る気になれないから。 見える景色が綺麗な、この歩道橋。 大好きな場所だったはずなのに。 あなたと一緒によく歩いたから、 今はすごく悲しい場所になってしまった。 ぽろっ… 「ぐすっ…泣いたって、もう月は帰ってこないのに…」 そう、帰ってこない。 まっつんももっちーも何も言わないけど、態度でわかる。 もう、月はこの世にいない。 キラなんて危ない人を追ってたんだもの。 覚悟してなかったわけじゃないけど… 月、キラはいなくなったよ。 もうすっかり元通り。元通りの、面白くも何ともない世界。 「…もう、いっかな」 終わりにしようかな。 向こうに行けば、月に会えるかもしんないし。 この歩道橋、結構高さあるし。打ち所が悪ければ、多分… ガシッ! 「ちょ、ちょっと何っ?!」 「くくく、こんな可愛いお嬢さんがゲートとはね…」 「?!ば、化け物?!」 私を羽交い締めにした、数匹の灰色の化け物とは別に、 一つ目の赤黒い化け物がゆっくりと現れる。 周りの人が、悲鳴をあげて逃げていく。 でも当の私は、ビックリはしたけど、 不思議と頭の中は落ち着いてる。 「意外と冷静なんですねえ」 「…まあね。何かあんた達みたいなの、  どっかで見たような気がするから」 「以前にもファントムに?…まあ良いでしょう。  いずれにせよ、あなたには死の恐怖で絶望してもらいます」 「…渡りに船ってわけね。  いいよ、丁度よかった。早く殺して」 「?何を言って…」 バシュン バシュン! 「くっ?!」 数発の銃撃音と同時に、 まとわりついていた灰色の化け物が苦しそうに離れ、 一つ目の奴も背中をおさえて振り向く。 「昼間っからナンパとは、感心しないねえ」 …! 飄々とした佇まいで現れたのは、妙な銃をかついだ黒い革ジャンの男の人。 一瞬、月に見えちゃった…私ったらどうかしてる。 「噂に聞く指輪の魔法使い、ですか」 「ワイズマンは死んだはずだ。なぜ今更ゲートを狙う」 「くくく、関係ありませんよ。  私は人間が絶望する瞬間の表情、  あれを見るのがたまらなく好きでねえ…  加えて仲間も増やせるとなれば、一石二鳥でしょう。  幸い、私にもゲートを見抜く能力が備わっていましてね。  メデューサ様がいなくても問題ないのです」 「なるほどね。まだまだ魔法使いは廃業できないってわけだ」 な、なに?何なのこの人達… って、一方は明らかに人じゃないけど。 ゲートとかワイズマンとか、何わけわかんないワードで会話してんの?! 「ちょっとー!ミサだけ置いてけぼり!?  ミサにもわかるように説明してよ!」 「おっと、随分活きのいいゲートだな。  ま、それはこいつを片付けてからだな」 ドライバーオン! シャバドゥビタッチヘンシーン 「変身!」 フレイム・プリーズ!ヒー!ヒーヒーヒーヒー! !? か、革ジャンが赤いのっぺらぼうに変身!? 一つ目小僧の次は、のっぺらぼうってわけ? あ、頭クラクラしてきた… 「私のささやかな楽しみを邪魔しないでもらいたいですねえ…  行け、グールども!!」 赤黒い一つ目の号令とともに、 灰色のがウジャウジャとのっぺらぼうに襲いかかる。 それをあっという間に、剣で一蹴するのっぺらぼう。 何この超展開…さっきまで死のうとしてた私の気持ちはどうしてくれんの。 もう、夢ならとっとと醒めて… 「魔法使いを、あんま舐めない方がいいぜ」 キンッ キンッ! のっぺらぼうは、そのまま一つ目の化け物に斬りかかる。 二又の槍で応戦する化け物。 「なるほど、数多のファントムと渡り合った実力は伊達ではないようですね」 「そゆこと」 バインド・プリーズ! 地面から伸びた鎖が化け物を絡めとるが、 力任せに引きちぎられる。 こいつ…魔法使い魔法使いって言ってるけど…まさかホントに…? 「雲行きが怪しくなってきましたね…ここは一時撤退するとしますか」 カァァッ! 「くっ!」 化け物は大きな目玉からまぶしい光を放つ。 私たちが目を開けた時には、影も形もなかった。 「…逃がしたか」 シュウン 魔法使い?は、人間の姿に戻ると私の方へ駆け寄ってきた。 「大丈夫か」 「…と、とにかく説明して」 「ああ、そうだったな。ここじゃなんだから、場所変えようか」 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 「お待たせ、コーヒーでいいか?」 「…ありがと」 人気の少ない噴水公園。 ここなら落ち着けるし涼しいし、人目にもつかないし… 「女の子の扱い、慣れてんじゃん」 「ん?あーw  この前まで君くらいの齢の子と、よく出歩いてたからかな」 「彼女?」 「そんなんじゃないよ。友達…とも、ちょっと違うか。  大切な人だったってことは、間違いないけど」 そう言って遠くを見る彼の目は、優しくて穏やかで、 でもどこか寂しそうで。 大切な人、だった。過去形か… 「ああごめん、説明だったな。  …と、その前に。俺は晴人。操真晴人」 「…ミサ。弥海砂」 「あまね…?あーどっかで見たことあると思ったら。  昔TVに出てた?」 「ふーん。意外とミーハーなんだ」 「いやそういうわけじゃないけどw  それで、さっきの化け物はファントムって言って…」 魔法のこと、ファントムのこと、ゲートのこと。 突拍子もない話だったけど、何故だか素直に受け入れることができた。 「要するに。ミサが絶望したら、  あんな化け物になっちゃうってわけ…」 「そ。だからそうならないように、俺に守らせて欲しいんだ」 「…ねえ。あんた、ホントに魔法使いなのよね」 「さっき見てただろ?」 「うん。…じゃあ、じゃあさ!!  死んじゃった人を生き返らせたりとか、出来ちゃったりする?!」 「おいおい、いきなりだなw  …まあ仮に、そんな魔法があったとしても俺は使う気にはならないかな。  そんな大それた魔法、  とんでもない代償が必要になりそうだしさ」 「ふん、それっぽいこと言っちゃって。  素直に『自分の力じゃ無理』って言いなさいよ」 「言ってくれるねw じゃ、今度はこっちから質問」 「なに?」 「さっきのファントムとの話きいてたんだけどさ。  何か悩みでもある?」 「……あー。『早く殺して』ってやつ」 「俺でよければ。話きくくらいは出来るけど」 「ホントにお節介…何か疲れちゃっただけよ。  もう生きてたって、何の希望もないし」 「希望、か…昔なにがあったか知らないし。  どうしても生きてたくないってのを、  無理やり止める権利もないけどさ。  君はいま生きている。だったら、その今を  もうちょっと続けてみてもいいんじゃないかな」 「…あんたなんかに、何がわかんのよ。  死ぬほど大好きな人を亡くした気持ちなんか…」 「わかるさ。痛いくらいにね」 「……!」 穏やかな表情は崩さない晴人。 でも、目がちょっと潤んでるように見えた。 「大事な人だったんだな」 「ずっと一緒なんだって思ってた…  一緒にご飯食べて、一緒にお喋りして、それから、それから…!」 「…それから?」 「それから…二人ですっごいおっきな事を一緒にやってたはずなんだけど…  どうしても思い出せないのよね」 「大きなこと?」 「うん…何かここまで出かかってて、  絶対忘れちゃいけないことのはずなのに…  思い出せない自分がもどかしくて、悔しくて」 「…もしさ。それ思い出せたら、ミサの希望になりそうか?」 「どゆこと?」 カチャ 「記憶を呼び覚ます魔法。試してみるか?」 そう言って晴人が取り出したのは 複雑な幾何学模様と、竜の絵が描かれた指輪だった。 間近で見ると、結構神秘的…魔法の指輪って言われても納得できちゃう。 「…って、そんな事できちゃうの?  やっぱ魔法ってすごいんだ!」 「ただしこの指輪、作った奴がまだ新米でね。  効果は絶大、でもリバウンドもデカい」 「…失敗したら死んじゃうとか?」 「そこまでの事はないよ。ただ全身に激痛が走ったり、  三日三晩寝込むなんてこともあり得る」 「そのくらいどって事ないよ…  ミサは、一週間の拷問にだって耐えた女の子だよ」 「ご、拷問?ミサ、君は一体…」 「やって晴人!それで月との大切な思い出、取り戻せるなら!!」 「…わかった」 晴人は私の手に指輪をはめると、 あのダサいデザインのベルトにゆっくりと近づけていく。 「心配いらないさ。  ミサに何かあっても、俺が必ずフォローする」 「ふふっ。元アイドルを落とす口説き文句にしては、安すぎじゃない?」 「軽口が叩けてる内は大丈夫だなw」 晴人はすぐに真剣な表情に戻る。 「いくぞ」 「いつでも」 リマインド・プリーズ! !?!? 「うっ…うああっ!!?」 一瞬にして、視界が真っ白になる。 全身に手を突っ込まれてかき回されるような感覚! 内臓を一つ残らず口から引きずり出されるような感覚! でもそれ以上に…… 膨大な情報が頭をパンクさせようとしてくる。 大量の映像が、激流のように流れこんでくる。 どうしても思い出せなかった月の言葉、月の表情… 『君の眼は武器になる』 『彼女にはできないが、フリはしてあげられる』 『久しぶりだな、リューク』 『そんなことしたらミサの寿命が…!』 最後に、一冊の黒いノートが記憶の海を埋め尽くす。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 「……!……サ!おいミサ、しっかりしろ!」 「う…ううん…」 目を開けると、晴人に抱きかかえられていた。 あは、月以外にこんなことされるの初めてだ… 「私、気絶しちゃってたんだ…」 「ああ。でもその程度のリバウンドで済んで良かった。  ミサが気持ちを強く持ってたおかげかな」 ゆっくり体を起こすと、全身が汗びっしょりで気持ち悪い。 指の先まで汗ばんでるのがわかる。 「で、記憶は戻ってきたのか?」 「うん。思い出したよ、全部」 こんな…こんな大事なこと忘れてたなんて。 「何年か前にさ…キラ事件ってあったの、覚えてる?」 「ああ、あの犯罪者がどんどん殺されてくってやつか」 「あれの犯人ね。私」 「…は?」 「ううん、ちょっと違うかな。正確には共犯者って感じ」 「ミサ、急に何を…」 受け入れられないのも無理ないか。 私だって昨日までは、こんな話笑い飛ばしてただろうし。 「相手の名前を書くだけで殺せる、死神のノート。  マンガみたいな話だけど、それは本当に存在したの」 「それを…ミサが持ってたってことか?」 「そ。私と彼でね、それ使って世界変えようとしてた。  でも全部失敗して、彼も死んじゃって…  信じてもらえないよね、わかってる。でも私は…」 「信じるよ」 「……え?」 晴人は真っ直ぐに私の目を見てた。 一点の曇りも迷いもない目で。 「俺は魔法使いだぜ?  死神くらい信じられなきゃ、やってらんないって。それに…」 「それに?」 「そんな悲しそうな目をした人間に、嘘なんてつけるわけない」 「…っ!晴人…!」 溜め込んでたものが、一気に爆発した。 目から熱いものが溢れ出して止まらない。 「私ね…世界とかノートとか、そんなのどうでも良かったの!  ただ、ただ彼と一緒にいられればそれで幸せだった!  彼は私に希望をくれた人で、私の全てで…!」 「ミサ…」 晴人が私に手をのばそうとしたその時。 ガキンッ! 「な、なんだっ!?」 突如地面から現れた鎖が、晴人の自由を奪う。 「晴人!?」 「くくく、さっきのお返しというわけではありませんがね」 「ファントム…!」 どこから現れたのか、例の一つ目野郎… じゃなかった、ファントムが下っ端をぞろぞろ連れて近づいてくる。 「魔法使いでも油断はするのですねえ…  ゲートとの会話に夢中になって、  私の接近に気づかないとは。  ですが、おかげでゲートを絶望させる手がかりが掴めました」 「…まさかお前…」 「ええ、全て聞かせてもらいましたよ。  恋人の死に涙する女性…美しいですねえ。  その顔が苦痛に歪めば、さらに美しく映えることでしょう」 ファントムはいやらしい笑みを浮かべ、ゆっくり私に歩み寄る。 「ミサ、逃げろ!」 「でも晴…きゃっ!」 考える間もなく、 灰色の下っ端が私を突き飛ばして組み伏せる。 こいつら、か弱い乙女になんてことすんのよ…! 「そうそう、私カトブレパスの能力はもう一つありましてね。  それは『記憶を食らう』能力です」 「!!き、記憶ってまさか…」 「やっと取り戻せた愛する人との記憶…  くくく、それを失う瞬間、  どんな絶望にうちひしがれた表情をしてくれるのか楽しみですねえ」 そいつの醜悪な指が私の額に近づいてくるのを見て、 頭が真っ白になる。 嫌だ、失くしたくない… 月の大切な思い出、月との絆…!! 「いいですねえ、その表情…」 「いや、いやっ…お願いやめて、それだけは…!!!」 もうダメ…!! そう思った瞬間、 真っ赤な鳥のような生き物が、ファントムの顔面に激突する。 「うっ?!!」 ファントムは完全に不意を突かれたみたいで、大きくよろめく。 さらに赤い鳥は、 拘束された晴人の腰から一つの指輪を器用に外すと 晴人のベルトのバックルに、指輪をくわえた嘴を押し当てた。 リキッド・プリーズ! !!? 目を疑っちゃったけど、 晴人の身体はドロドロの液体になって拘束から抜け出す。 かと思うと、すぐに元の晴人に戻り、 瞬く間に私を抑えていた手下達を剣で斬り飛ばした。 あはは、魔法使いってホント何でもアリ… 「誰が油断してたって?  消費の大きい魔法を使う時、  周囲をプラモンスターに警戒させとくなんて当然だろ」 「くっ、キ、キサマ…」 「そして…大切な誰かを想う心を  踏みにじろうとしたお前を、俺は許さない」 インフィニティ・プリーズ!! ヒースイフードー ボーザバビュードゴーン! また別の指輪を使った晴人は、さっきとは全く違う姿に変身する。 銀色に輝く晴人の全身は神々しいくらいで 横で見てるだけの私でさえ圧倒されちゃう… それはファントムも同じみたいで、思わず半歩後ずさる。 魔法のことなんて、全然わかんない私にもすぐわかった… この勝負、晴人の勝ちだ。 ターンオン!ハイタッチ! 「く、くそっ!!」 「逃がすか!」 シャイニングストライク!!キラキラ〜 「ぐ…ぐあああああっ!!!」 逃げようとするファントムに、 晴人は大きく振りかぶった巨大な斧を振り下ろす。 容赦ないその一撃で、ファントムの身体は粉々に… 「ふぃ〜。さてミサ、立てるか?」 「あ…う、うん。あの晴人、その……ありがと」 「ん?…ははっ、素直にお礼なんて、らしくないなw」 「う、うるさいな!」 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 「本当にもう大丈夫か?」 「うん。何か、マジで死ぬような目にあっちゃったらさ…  死のうなんて気もどっか行っちゃった」 「そっか。そりゃ良かった」 「それにね…」 月と並んで歩いた歩道橋で、 月と並んで見た景色を見ながら、思いを吐き出す。 「月やノートのこと自体は、警察の人とかも結構知ってるんだ。  でも彼がどんな考えで、ノートを使ってたのか…」 「世界を変えようとしてたこと?」 「うん。その気持ちを知ってるのはね、多分私だけなんだ」 月の一番近くにいられたからこそ知れた、月の胸の内。 世界を良くしたいっていう、月の真っ直ぐな思い… 「私がいなくなったら、  月の気持ちを覚えてる人は誰もいなくなっちゃう。  だから私が、ずっと大切に守っていくんだ」 「なるほどね。そりゃ大事な役目だな」 「でしょ?」 少し無理して笑顔を作り、振り向いた私に、 晴人は一つの指輪を握らせる。 え?これって… 「あ…これさっきの、記憶を呼び起こす…」 「やるよ。ミサが持ってても魔法は使えないけどさ。  ミサが持ってた方がいい気がするんだ。何となくね」 「で、でもいいの?」 「ああ。ミサの心が折れそうになった時にでも  それ見て今日の決意を思い出せよ」 「…そして俺のことも思い出せよ…  とか言うんじゃないでしょうね?」 「ははっ、バレたかw」 晴人は最後に得意の軽口を叩くと、別れを切り出す。 「もう行くよ。会えて良かった」 「私も。あの、上手く言えないんだけど…  晴人の大切な人も、  晴人に会えて良かったって言うと思うよ。絶対」 「…サンキュ」 右手を挙げて、振り返らずに去っていく晴人。 ったく、最後までカッコつけちゃって… 「月…私も、月に会えてホントに良かった」 月の世界を変える戦いは終わっちゃったけど。 月のことは、月の思いは、私が永遠に忘れないから。 私がずっと守っていくから。 月…見ててくれるよね? 〜Fin〜